【なぜ合格率は低下したのか】社労士試験の難易度【選択式の過去と現在】

社労士試験の難易度
この記事は約12分で読めます。
受験生Aさん

社労士試験の難易度が上がったという話はよく耳にしますが、選択式試験の難易度も昔に比べて上がっているのですか?

受験生Bさん

選択式試験の科目別合格基準点が補正されるのは、どのようなケースの時でしょうか?また昔と比べて補正されるケースは厳しいのですか?

社労士M

今回の記事では、このような疑問に答えるため、選択式試験の難易度と科目基準点の変遷について見ていきます。

この記事を読み進めて頂きますと、次のことがわかります

  • 過去の選択式試験の趣旨についてについて
  • 過去の選択式試験において、科目基準点の補正(基準点の引き下げ)がおこなわれた理由について
  • 平成28年試験から選択式試験における科目基準点の補正が、厳格化されるようになった理由について

【なぜ合格率は低下したのか】社労士試験の難易度【選択式の過去と現在】

社労士M

私がこの記事を書きました。

名前:社労士M

経歴:平成23年(2011年)社労士試験に合格しました。その後、平成26年(2014年)に「特定社労士」を社会保険労務士名簿へ付記しています。

社労士試験合格後は、都道府県社労士会の判例研究会や労働紛争研究会などの研究団体に所属して、労務管理に関する書籍執筆にも参加しました。

なお、択一式試験の難易度については、下にリンクした記事で解説していますので、ご興味のある方はご覧ください。

【なぜ合格率は低下したのか】社労士試験の難易度【択一式の過去と現在】

社労士試験の選択式合格基準点の決まり方

平成12年度から現在の選択式試験が始まり、その際に択一式試験と共に以下の合格基準点が定められました。

    • 選択式合格基準点
      40点満点中28点以上、かつ、各科目3点以上
    • 択一式合格基準点
      70点満点中49点以上、かつ、各科目4点以上

ただし社会保険労務士試験は、毎年難易度が変動するため、上記の合格基準点とは別に、次のような措置も講じられることとなりました。

各年度毎の試験問題に難易度の差が生じることから、試験水準を一定に保つため、各年度において、総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して補正を行うものとする。

この規定に基づき、合格基準点の補正が現在に至るまで継続的に行われています。
また、ここでいう補正とは、受験生や予備校講師が「救済」呼ぶ措置のことです。
なお、今回の記事では「補正」という呼称は可能な限り使用せず、「救済」と表記します。

社労士試験選択式の趣旨

社労士試験を実施する厚労省は、選択式試験をどのように位置づけているのでしょうか?
それについて、平成20年度試験の「追加補正の理由」により確認することができます。

「追加補正の理由」(一部抜粋)
今年(平成20年)の選択式は難化が著しく、(合格基準点の)引き下げを行わなかった場合、選択式合格者は、14.4%(引き下げ後18.7%、昨年21.1%)となり、本来、基礎知識を問う選択式試験の趣旨にも反すること。

出典:平成27年社労士試験不合格取消等請求事件(労災・国年)TKTK

上記の「追加補正の理由」をご覧頂くと分かるように、厚生労働省は選択式試験の趣旨を「基礎知識を問う」ものと位置づけをおり、試験内容が難しかった年度においては、救済の条件を満たさない科目であっても例外的な条件を用いて、合格基準点の引き下げをおこなってきました。
なお救済の条件は、原則として以下のように規定されています。

基準点(選択式3点、択一式4点)以上の受験者の占める割合が5割に満たない場合は、合格基準点を引き下げ補正する。ただし、次の場合は、試験の水準維持を考慮し、原則として引き下げを行わないこととする。

ⅰ)引き下げ補正した基準点未満(選択式1点未満、択一式3点未満)の受験者の占める割合が3割に満たない場合
ⅱ)引き下げ補正した基準点が、選択式で0点、択一式で2点以下となる場合

社労士試験の試験水準と選択式の合格基準点の関係

平成26年社労士試験までの選択式合格基準点と合格率

現在の試験制度となった平成12年以降、同26年までの平均合格率は8.4%(下図参照)で推移してきました。もし前述した追加補正(追加救済)がされずに、原則条件のみで救済をおこなった場合、著しい合格率の低下を招くことになり、試験水準を一定に保つことはできなかったでしょう。


上の図は平成12年から平成26年までの社労士試験合格率推移です

ちなみに「基礎知識を問う」はずの選択式試験ですが、平成23年度試験では難問化が著しかったようで、原則の救済条件に加え、以下のような例外的条件を追加することで、急激な合格率の低下を抑えています。

【平成23年選択式科目補正の追加条件】
選択式及び択一式試験のそれぞれについて、基準点以上の受験者の占める割合が概ね5割(51%を目安)である科目が複数科目存在し、かつ、総得点では合格基準以上(選択式23点以上、択一式46点以上)でありながら、いずれかの科目について合格基準点(通常の科目補正の条件により補正したものを含む。)に達しないことにより不合格になる者の割合が相当程度になる場合(概ね70%を目安)には、試験の水準維持を考慮し、当該複数科目について原則として合格基準点の引き下げを行う。

出典:平成27年社労士試験不合格取消等請求事件(労災・国年)TKTK

要するに平成23年試験では受験者の得点状況が

  • 総得点では合格基準以上でありながら、いずれかの科目について合格基準点に達しないことにより不合格になる者の割合が相当程度になる場合(概ね70%を目安)

となったことで

  • 選択式及び択一式試験のそれぞれについて、基準点以上の受験者の占める割合が概ね5割(51%を目安)である科目

となった選択式試験の労基・安衛(50.6%)国年(51.2%)の合格基準点が2点に引き下げられました。
また選択式試験の労災も、合格基準点以上の受験者の割合が35.1%と前述した2科目よりも難問であったため、合格基準点が2点に引き下げられました。

このように、原則の救済条件を満たさない科目を追加で救済した理由は、試験水準を一定に保つため、合格率を7~8%程度にすることを目的に行われたと考えられます。

この追加救済の結果、平成23年度試験の合格率は7.2%となっております。

平成26年の社労士法改正に伴う合格基準の厳格化

これまで述べてきたように、選択式試験では、試験水準を一定に保つことを目的に追加救済がおこなわれてきました。しかしある法律が改正されたことで、合格基準点の引下げ条件(救済の条件)が厳格化されます。その法律は「社会保険労務士法」です。
平成26年11月に改正された社会保険労務士法(第8次)ですが、法律案可決に際して、厚生労働委員会の意思を表明する「附帯決議」には以下のような文言があります。

附帯決議(一部抜粋)
訴訟代理人の補佐人制度の創設については、個別労働関係紛争に関する知見の有無にかかわらず全ての社会保険労務士を対象としていることから、その職務を充実したものとするため、社会保険労務士試験の内容の見直しや対審構造での紛争解決を前提とした研修などのほか、利益相反の観点から信頼性の高い能力を担保するための措置を検討すること。

ここで重要なのは「社会保険労務士試験の内容の見直し」と明記されていることです。
もちろん、試験内容を見直すためにはあらためて社会保険労務士法の改正が必要となるため「それでは来年の試験から内容を変更します」とはいかず、当分の間は現行の試験制度で実施することになります。
しかしすべて社労士が、訴訟代理人の補佐人となることが可能なため、今後の試験では、何らかの形で難易度を上げなければなりません。そして社労士法改正の翌年にあたる平成27年試験では「試験水準を一定に保つ」措置が講じられず合格率が2.58%という結果になりました

以下の表は平成27年度社労士試験選択式の得点状況ですが、「試験水準を一定に保つ」措置が講じられず、原則的な救済のみで合格基準点が決められていることが分かります。そのため全受験者に占める合格基準点以下の割合が5割を超えている労災と国年は、合格基準点を2点に引き下げたとしても、基準点未満(1点未満)の割合が3割を超えないため、追加救済されませんでした。

参考サイト:平成27年社労士試験不合格取消等請求事件(労災・国年)TKTK

平成23年度の社労士試験で講じられた「試験水準を一定に保つ」ための追加救済が、平成27年度試験でもおこなわれていれば、合格基準点以下の割合が5割を超えている労災と国年も救済されたはずです。追加救済されなかった理由は、前述の附帯決議の内容を踏まえて、試験水準を引き上げた(難易度を引き上げた)ためでしょう。
要するに、平成26年度社労士試験まで、選択式試験の趣旨は「基礎知識を問う」ものでしたが、平成27年度試験からは、基礎知識以上の内容を問うことにしたと考えられます。

「社労士試験合格基準の考え方」の公開

平成28年度社労士試験の合格発表後から「社労士試験合格基準の考え方」が一般に公開されるようになりました。この年の社労士試験合格率は4.4%と前年の2.58%よりは上昇したものの、例年に比べると厳しい数字となりました。そして「社労士試験合格基準の考え方」では、選択式試験の合格基準は以下のように規定され、かつてのような追加救済はおこなわれませんでした。

各科目の合格基準点(選択式3点、択一式4点)以上の受験者の占める割合が5割に満たない場合は、合格基準点を引き下げ補正する。
ただし、次の場合は、試験の水準維持を考慮し、原則として引き下げを行わないことと
する。
ⅰ) 引き下げ補正した合格基準点以上の受験者の占める割合が7割以上の場合
ⅱ) 引き下げ補正した合格基準点が、選択式で0点、択一式で2点以下となる場合

私見ではありますが、上記の考え方で示されている「試験の水準」は、平成12年から同26年までの試験水準ではなく、附帯決議に基づいて難易度を引き上げた試験水準であると思料します。
実際、平成12年から同26年までの平均合格率は8.4%であったのに対し、平成27年から令和2年までの5年間の平均合格率は5.5%(下図参照)と、第8次社会保険労務士試験法改正前に比べて2.9%も低下しています。


上の図は平成27年から令和2年までの社労士試験合格率推移です

なお、平成27年以降の選択式試験で救済されるケースを分かりやすく述べると、以下のように言い換えられます。

【合格基準点を2点に救済するケース】
以下の「1.」と「2.」が共に満たされている場合にのみ救済される。

  1. 2点以下割合が50%以上
  2. 1点以下割合が30%以上

追加「救済」なき選択式試験

「社労士試験合格基準の考え方」が一般に公開されるようになってから、令和2年度の試験に至るまで、追加救済されたことは一度もなく、まさに追加「救済」なき選択式試験となっています。
また、平成29年から令和2年までの合格率は6%台で推移していますが、もし出題される問題が見たことも聞いたこともないような難問であった場合、平成27年度試験の合格率(2.58%)程度まで低下する可能性は十分に考えられます。
合格基準の考え方が公開されたことにより、試験水準を一定に保つ措置(追加救済される措置)は講じられなくなったので、出題される内容によって合格率が乱高下するリスクが高まったといえるでしょう。

【追記】令和3年社労士試験合格発表を受けて

平成27年から昨年(令和2年)までの6年間、選択式試験の合格基準点は、下記の規定に基づいて決められていました。

基準点(選択式3点、択一式4点)以上の受験者の占める割合が5割に満たない場合は、合格基準点を引き下げ補正する。ただし、次の場合は、試験の水準維持を考慮し、原則として引き下げを行わないこととする。

ⅰ)引き下げ補正した基準点未満の受験者の占める割合が3割に満たない場合
ⅱ)引き下げ補正した基準点が、選択式で0点、択一式で2点以下となる場合

しかし、令和3年社労士試験の選択式では「ⅰ)」のケースに該当した労働一般と国民年金の合格基準点が補正されています。

下の表は選択式試験の「社会保険労務士試験科目得点状況表」です。引き下げ補正した基準点未満の割合は、労働一般が15.9%、国民年金が24.5%と本来補正される条件の30%以上ではないことが分かります。

ところが「社会保険労務士試験の合格基準の考え方について」を見ても、2科目が例外的に補正された理由の記述はありません。

平成27年以降、例外的に補正されたことはないので、厚生労働省は2科目について合格基準点を補正した理由を公表すべきであると私は思います。

なお私の見解は、こちらの記事に掲載していますので、ぜひご覧ください。

今後の社労士試験について

最後に話が政治的なものになりますが、社労士会政治連盟は「第9次社労士法改正に関する要望事項」において、特定社労士の簡裁訴訟代理権および労働審判代理権を求めています。要望実現のためには、弁護士会との協議等のほかに、民法や憲法が試験科目にない現状の試験制度を改める必要があります。
そのため近い将来、社労士試験は更に科目が増え、かつ論述問題が出題されるような試験制度に変更される可能性があります。実際、前回の社労士法改正の際に、附帯決議において試験内容の見直しが要請されており、次の社労士法改正時には、高い確率で試験制度が変更されるものと思われます。

現在の社労士試験も狭き門ですが、第9次社労士法改正時には職域拡大に伴い、更に狭き門となることでしょう。
ただし職域が拡大されるということは、合格後の活動の幅が広がることを意味しており、それが試験に対するモチベーションアップとなるはずです。

本気で合格を目指す受験生にとっては、今後、試験制度がどのように見直されるのかは気になるところでしょうが、まずは現状の試験制度での合格を目指しつつ、合格後に社労士として活躍する姿をイメージして、難関といわれる社労士試験を突破してください。

社労士試験対策講座については、下にリンクした記事にまとめています。

今回のまとめ

  • 過去の選択式試験の趣旨は「基本知識を問う」ものであった。
  • 過去の選択式試験は、試験水準を一定に保つために追加救済により合格基準点の引き下げをおこなっていた。
  • 平成26年に改正された第8次社会保険労務士法の「附帯決議」により、平成27年度試験から試験水準を引き上げた(難易度を引き上げた)。
  • 平成28年度試験後より「社労士試験合格基準の考え方」が一般に公開されるようになり、その後は追加救済による合格基準点の引き下げもおこなわれなくなった。
  • 社労士会政治連盟がまとめた第9次社労士法改正の要望書において、特定社労士の簡裁訴訟代理権および労働審判代理権を求めており、それに伴い試験制度が変更される可能性がある。

コメント

タイトルとURLをコピーしました