【なぜ合格率は低下したのか】社労士試験の難易度【選択式の過去と現在】

社労士試験の学習法
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受験生Aさん

選択式試験の難易度が上がったという話はよく耳にしますが、なぜ難易度が上がったのでしょうか?

受験生Bさん

選択式試験の科目別合格基準点が補正されるのは、どのようなケースの時でしょうか?また昔と比べて補正されるケースに変化があったのでしょうか?

社労士M

今回の記事では、このような疑問に答えるため、選択式試験の難易度と科目別合格基準点の変遷について見ていきます。

この記事を読み進めて頂きますと、次のことがわかります

  • 選択式試験の趣旨
  • 過去の選択式試験において、科目別合格基準点が補正(基準点の引き下げ)された理由
  • 平成27年試験から、選択式科目別合格基準点の補正が厳格化された理由

【なぜ合格率は低下したのか】社労士試験の難易度【選択式の過去と現在】

社労士M

私がこの記事を書きました。

名前:社労士M

経歴:2011年(平成23年)の社会保険労務士試験に合格しました。その後、2014年(平成26年)に「特定社会保険労務士」を社会保険労務士名簿へ付記しています。

社労士試験合格後は、都道府県社労士会の判例研究会や労働紛争研究会などの研究団体に所属して、労務管理に関する書籍執筆(成果物の執筆)にも参加しました。

なお、択一式試験の難易度については、下にリンクした記事で解説していますので、併せてご覧ください。

社労士試験の選択式合格基準点の決まり方

2000年(平成12年)から現行の試験制度による社会保険労務士試験が始まり、その際、次のような選択式試験の合格基準点が定められました。

40点満点中28点以上、かつ、各科目3点以上

ただし、社労士試験は、毎年難易度が変動するため、上記の合格基準点とは別に、次のような措置も講じられることとなりました。

各年度毎の試験問題に難易度の差が生じることから、試験水準を一定に保つため、各年度において、総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して補正を行うものとする。

この規定に基づき、合格基準点の補正が現在に至るまで継続的に行われています。

また、ここでいう「補正」とは、受験生や予備校講師が「救済」呼ぶ措置のことです。

社労士試験選択式の趣旨

社労士試験を実施している厚生労働省は、選択式試験をどのように位置づけているのでしょうか?

それについては、平成20年試験の「社会保険労務士試験の合格基準について」により確認することができます。

「社会保険労務士試験の合格基準について」(一部抜粋)
今年(平成20年)の選択式は難化が著しく、(合格基準点の)引き下げを行わなかった場合、選択式合格者は、14.4%(引き下げ後18.7%、昨年21.1%)となり、本来、基礎知識を問う選択式試験の趣旨にも反すること。

出典:平成27年社労士試験不合格取消等請求事件(労災・国年)TKTK

上記の「追加補正の理由」をご覧頂くと分かるように、厚生労働省は選択式試験の趣旨を「基礎知識を問う」ものと位置づけています。

軟化が著しかった平成20年試験では、補正をおこなう条件を満たさない科目であっても、選択式試験の趣旨に反することから、例外的な条件を用いて合格基準点の引き下げがおこなわれました。

なお補正をおこなう条件は、「原則」として次のように規定されています。

基準点(選択式3点、択一式4点)以上の受験者の占める割合が5割に満たない場合は、合格基準点を引き下げ補正する。ただし、次の場合は、試験の水準維持を考慮し、原則として引き下げを行わないこととする。

ⅰ)引き下げ補正した基準点未満(選択式1点未満、択一式3点未満)の受験者の占める割合が3割に満たない場合
ⅱ)引き下げ補正した基準点が、選択式で0点、択一式で2点以下となる場合

社労士試験の試験水準と選択式の合格基準点の関係

平成26年社労士試験までの選択式合格基準点と合格率

現在の試験制度となった2000年以降、2014年(平成26年)までの平均合格率は8.4%で推移してきました(下の表を参照)。

上記期間の選択式試験において「試験の水準維持を考慮」した措置がされずに、原則による補正のみをおこなっていたとしたら、著しい合格率の低下を招くことになり、試験水準を一定に保つことはできなかったでしょう。

「平成12年から平成26年までの社労士試験合格率」

ちなみに「基礎知識を問う」はずの選択式試験ですが、平成23年試験では難問化が著しかったようで、次のような条件で補正をおこない、急激な合格率の低下を抑えています。

【平成23年選択式科目補正の条件】

選択式及び択一式試験のそれぞれについて、基準点以上の受験者の占める割合が概ね5割(51%を目安)である科目が複数科目存在し、かつ、総得点では合格基準以上(選択式23点以上、択一式46点以上)でありながら、いずれかの科目について合格基準点(通常の科目補正の条件により補正したものを含む。)に達しないことにより不合格になる者の割合が相当程度になる場合(概ね70%を目安)には、試験の水準維持を考慮し、当該複数科目について原則として合格基準点の引き下げを行う。

出典:平成27年社労士試験不合格取消等請求事件(労災・国年)TKTK

要するに平成23年試験では受験者の得点状況が

  • 総得点では合格基準以上でありながら、いずれかの科目について合格基準点に達しないことにより不合格になる者の割合が相当程度になる場合(概ね70%を目安)

となったので

  • 選択式及び択一式試験のそれぞれについて、基準点以上の受験者の占める割合が概ね5割(51%を目安)である科目

労基・安衛(50.6%)国年(51.2%)の合格基準点が、追加補正により2点に引き下げられました。

また選択式試験の労災も、合格基準点以上の受験者の割合が5割に満たなかった(35.1%)でしたので「基準点(選択式3点、択一式4点)以上の受験者の占める割合が5割に満たない場合は、合格基準点を引き下げ補正する。」を根拠とし、選択式1点未満の受験者の占める割合が3割(30 %)でなくとも、例外的な補正によりに合格基準点が2点に引き下げられました。

科目2点以下の割合1点以下の割合補正理由
労災64.9%27.4%基準点以上の割合が5割に満たない
労基・安衛49.4%24.4%基準点以上の受験者の占める割合が概ね5割(51%を目安)
国年48.8%18.7%基準点以上の受験者の占める割合が概ね5割(51%を目安)

このように、本来の補正条件を満たさない上記3つ科目を補正した理由は、試験水準を一定に保つこと(合格率を7~8%程度にすること)であると考えられます。

これらの補正の結果、平成23年試験の合格率は7.2%となりました。

平成26年の社労士法改正に伴う合格基準の厳格化

ここまで述べてきたように、選択式試験では、試験水準を一定に保つことを目的として、例外的な補正や追加補正がおこなわれてきました。

しかしある法律が改正されたことで、合格基準点の引下げ条件(補正の条件)が厳格化されます。その法律は「社会保険労務士法」です。

2014年(平成26年)11月に社会保険労務士法(第8次)が改正されます。ただし、法律案可決に際して、厚生労働委員会の意思を表明する「附帯決議」には次のような文言がありました。

附帯決議(一部抜粋)
訴訟代理人の補佐人制度の創設については、個別労働関係紛争に関する知見の有無にかかわらず全ての社会保険労務士を対象としていることから、その職務を充実したものとするため、社会保険労務士試験の内容の見直しや対審構造での紛争解決を前提とした研修などのほか、利益相反の観点から信頼性の高い能力を担保するための措置を検討すること。

ここで重要なのは「社会保険労務士試験の内容の見直し」と明記されていることです。

もちろん、試験内容を見直すためには、あらためて社会保険労務士法の改正が必要となるため「それでは来年の試験から内容を変更します」とはいかず、当分の間は現行の試験制度で実施することになります。

しかしすべて社労士が、訴訟代理人の補佐人となることが可能なため、社労士法改正後の試験では、何らかの形で難易度を上げなければなりません。

そして社労士法改正の翌年にあたる平成27年試験では「試験水準を一定に保つ」措置が講じられず合格率が2.58%という結果になりました

下の表は平成27年試験選択式の得点状況です。

今まで講じられてきた「試験水準を一定に保つ」措置が為されず、原則的な補正のみで合格基準点が決められていることがわかります。

そのため全受験者に占める合格基準点以下の割合が5割(50%)を超えている労災と国年が、合格基準点を2点に引き下げたとしても、基準点未満(1点未満)の割合が3割(30%)を超えないため、追加補正されませんでした。

参考サイト:平成27年社労士試験不合格取消等請求事件(労災・国年)TKTK

平成23年試験で講じられた「試験水準を一定に保つ」ための例外的な補正が、平成27年試験でもおこなわれていれば、合格基準点以下の割合が5割を超えている労災と国年も補正されたはずです。

例外的な補正されなかった理由としては、前述の附帯決議の内容を踏まえて、試験水準を引き上げた(難易度を引き上げた)ことが考えられます。

要するに、平成26年試験までの選択式試験は「基礎知識を問う」ものでしたが、平成27年試験からは、基礎知識以上の内容を問うものとなったのです。

「社労士試験合格基準の考え方」の公開

平成28年試験の合格発表後から「社労士試験合格基準の考え方」が一般に公開されるようになりました。

この年の合格率は4.4%と前年の2.58%よりは上昇したものの、例年に比べると厳しい数字となりました。そして「社労士試験合格基準の考え方」では、選択式試験の合格基準は以下のように規定され、かつてのような例外的な補正や追加補正はおこなわれませんでした。

各科目の合格基準点(選択式3点、択一式4点)以上の受験者の占める割合が5割に満たない場合は、合格基準点を引き下げ補正する。
ただし、次の場合は、試験の水準維持を考慮し、原則として引き下げを行わないことと
する。
ⅰ) 引き下げ補正した合格基準点以上の受験者の占める割合が7割以上の場合
ⅱ) 引き下げ補正した合格基準点が、選択式で0点、択一式で2点以下となる場合

上記の考え方で示されている「試験の水準」は、2000年(平成12年)から2014年(平成26年)までの試験水準ではなく、附帯決議に基づいて難易度を引き上げた試験水準であると思料します。

実際、上記期間の平均合格率は8.4%であったのに対し、2015年(平成27年)から2022年(令和4年)までの8年間の平均合格率は5.7%(下の表を参照)と、第8次社会保険労務士試験法改正前に比べて2.7%も低下しています。

「平成27年から令和4年までの社労士試験合格率」

なお、2015年以降の選択式試験で補正されるケースを分かりやすく述べると、次のように言い換えることができます。

【合格基準点を「2点」に救済するケース】
原則として、以下の「1.」と「2.」が共に満たされている場合にのみ補正される。

  1. 2点以下割合が50%以上
  2. 1点以下割合が30%以上

選択式試験の合格基準点により合格率が乱高下するリスクが高まった

「社労士試験合格基準の考え方」が一般に公開されるようになってから直近の令和4年試験まで、後述する令和3年試験を除き、例外的な補正がされたことは一度もありません。

また、2017年から2020年までの合格率は6%台で推移していますが、もし出題される問題が見たことも聞いたこともないような難問であった場合、平成27年度試験の合格率(2.58%)程度まで低下する可能性は十分に考えられます。

合格基準の考え方が公開されたことにより、試験水準を一定に保つ措置は、原則として講じられなくなったので、出題される内容によって合格率が乱高下するリスクが高まったといえるでしょう。

【追記】令和3年社労士試験合格発表を受けて

2015年(平成27年)から2020年(令和2年)までの6年間、選択式試験の合格基準点は、下記の規定に基づいて決められていました。

基準点(選択式3点、択一式4点)以上の受験者の占める割合が5割に満たない場合は、合格基準点を引き下げ補正する。ただし、次の場合は、試験の水準維持を考慮し、原則として引き下げを行わないこととする。

ⅰ)引き下げ補正した基準点未満の受験者の占める割合が3割に満たない場合
ⅱ)引き下げ補正した基準点が、選択式で0点、択一式で2点以下となる場合

しかし、令和3年試験の選択式では「ⅰ)」のケースに該当した労働一般と国民年金の合格基準点が例外的に補正されています。

下の表は選択式試験の「社会保険労務士試験科目得点状況表」です。引き下げ補正した科目の合格基準点未満の割合が、労働一般が15.9%、国民年金が24.5%と本来補正される条件の30%以上ではないことが分かります。

しかし「社会保険労務士試験の合格基準の考え方について」を見ても、2科目が例外的に補正された理由の記述はありません。

額面通りに受け取れば、労働一般の合格基準点を例外的な補正により「1点」にしたことで、国民年金の「2点」への引き下げも、整合性を保つために例外的な補正をおこなったと考えられます。

2015年以降、合格基準点を例外的な補正により「2点」に引き下げたことはないのですから、上記2科目を例外的に補正した理由を「合格基準点の考え方について」中で示すべきです。

今後の社労士試験について

最後に、今後の試験制度について考えてみます。

社労士会政治連盟は「第9次社労士法改正に関する要望事項」において、特定社労士の簡裁訴訟代理権および労働審判代理権を求めています。

要望実現のためには、弁護士会との協議等のほかに、紛争解決に必要な法知識(民法や憲法等)が試験科目にない現状を改める必要があります。

そのため近い将来、社労士試験は更に出題科目数が増え、かつ論述問題が出題されるような試験制度に変更される可能性があります。実際、前回の社労士法改正の際に、附帯決議において試験内容の見直しが要請されており、次の社労士法改正時には、高い確率で試験制度が変更されるものと思われます。

現在の社労士試験も狭き門ですが、第9次社労士法改正時には職域拡大に伴い、より一層、狭き門となることでしょう。

ただし職域が拡大されるということは、合格後の活動の幅が広がることを意味しており、それが試験に対するモチベーションアップとなるはずです。

本気で合格を目指す受験生にとっては、今後、試験制度がどのように見直されるのかは気になるところでしょうが、まずは現状の試験制度での合格を目指しつつ、合格後に社労士として活躍する姿をイメージして、難関といわれる社労士試験を突破してください。

社労士試験対策講座については、下にリンクした記事にまとめています。

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