【なぜ合格率は低下したのか】社労士試験の難易度【択一式の過去と現在】

社労士試験の学習法
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受験生Aさん

選択式試験の難易度が上がったという話はよく耳にしますが、択一式試験の難易度も昔に比べて上がったのでしょうか?

受験生Bさん

択一式試験の科目別合格基準点は、どのような方式で決まるのでしょうか?

社労士M

今回の記事では、受験生のこうした疑問に答えるため、択一式試験の難易度と科目別合格基準点の変遷について見ていきます。

この記事を読み進めて頂きますと、次のことがわかります

  • 択一式試験の合格基準点の決まり方と、合格基準点が補正される条件について
  • 択一式試験の「総得点」における合格基準点の決まり方について
  • 択一式試験の科目別合格基準点が補正された年度と科目について
  • 択一式試験は、基礎力を付ければ合格基準点を超えることは可能な理由について

【なぜ合格率は低下したのか】社労士試験の難易度【択一式の過去と現在】

社労士M

私がこの記事を書きました。

名前:社労士M

経歴:平成23年(2011年)の社労士試験に合格しました。

その後、平成26年(2014年)に「特定社会保険労務士」を社会保険労務士名簿へ付記し、現在は労使紛争の解決に取り組んでいます。
特定社会保険労務士とは、個別労働紛争における代理人としての業務が認められた社労士のことです。
社労士試験合格後は、都道府県社労士会の判例研究会や労働紛争研究会などの研究団体に所属して、労務管理に関する書籍執筆(成果物の執筆)にも参加しました。

なお、選択式試験の難易度については、下にリンクした記事をご覧ください。

択一式試験における合格基準点の決まり方

択一式試験は、現在の試験制度となる平成12年(2000年)より前から実施されていましたが、試験制度が現在の方式へ変更されることに伴い、次のような合格基準点が定められました。

70点満点中49点以上、かつ、各科目4点以上

ただし社会保険労務士試験は、毎年難易度が変動するため、試験水準を一定に保つことを目的に、次のような措置も講じられることとなりました。

各年度毎の試験問題に難易度の差が生じることから、試験水準を一定に保つため、各年度において、総得点及び各科目の平均点及び得点分布等の試験結果を総合的に勘案して補正を行うものとする。

この規定に基づき、択一式試験では、合格基準点の「補正」が現在に至るまで継続的におこなわれています。

ただし択一式試験では、科目別合格基準点の4点未満となる受験者の割合が、選択式試験の3点未満となる割合よりは少ないため、毎年のように補正されることはありません。

択一式試験で科目別の合格基準点が救済される条件

択一式試験における科目別合格基準点が補正される条件は、次のように規定されています。

基準点(選択式3点、択一式4点)以上の受験者の占める割合が5割に満たない場合は、合格基準点を引き下げ補正する。ただし、次の場合は、試験の水準維持を考慮し、原則として引き下げを行わないこととする。

ⅰ)引き下げ補正した基準点未満(選択式2点未満、択一式3点未満)の受験者の占める割合が3割に満たない場合
ⅱ)引き下げ補正した基準点が、選択式で0点、択一式で2点以下となる場合

択一式試験の科目別補正措置は、選択式試験のように3点の合格基準点を1点に引下げるような措置はされず、上記「ii)」のとおり、引下げたとしても3点までが限度となります。

総得点の合格基準点について

択一式試験は、科目別の合格基準点(原則4点)だけ満たせば合格できる訳ではなく、全ての科目で得点した総得点が、合格基準点(原則49点)を超えなければなりません。この合格基準点を超えることができずに、不合格となる受験者も少なくはないのです。

令和元年試験では、43点が択一式試験の総得点合格基準点であり、選択式・択一式の双方において総得点合格基準点を超えた受験者の数は、一般受験者37,436人のうち4,719人となっています。

4,719人のうち選択式と択一式で科目別合格基準点を満たさない受験者が不合格となり、最終的な合格者数は2,427人となりました。

なお、令和元年試験では、選択式と択一式を共に総得点で合格基準点を満たした一般受験者の割合は12.6%でしたので、難関資格といわれる社労士試験であっても、総得点で合格基準点を満たすことは決して難しくありません。

出典:① 社労士試験合格基準 開示データ (平成19年~令和〇年) と情報公開審査会答申

総得点合格基準点の決まり方

択一式試験における、総得点合格基準点は、次のように決められています。

  1. 選択式試験、択一式試験それぞれの総得点について、前年度の平均点との差を少数第1位まで算出し、それを四捨五入し換算した点数に応じて前年度の合格基準点を上げ下げする(例えば、差が△1.4点なら1点下げ、+1.6点なら2点上げる。)。
    ※ 前年の平均点との差により合格基準点の上下を行うが、前年に下記「3.」の補正があった場合は、「3.」の補正が行われなかった直近の年度の平均点も考慮する。
  2. 上記「1.」の補正により、合格基準点を上下させた際、四捨五入によって切り捨て又は繰り入れされた小数点第1位以下の端数については、平成13年度以降、累計し、±1点以上となった場合は、合格基準点に反映させる。ただし、これにより例年の合格率(平成12年度以後の平均合格率)との乖離が反映前よりも大きくなった場合は、この限りではない。
  3. 各科目の最低点引き下げを2科目以上行ったことにより、例年の合格率と比べ高くなるとき(概ね10%を目安)は、試験の水準維持を考慮し合格基準点を1点足し上げる。

令和2年の総得点合格基準点は44点でしたが、平均点が31.5点と、前年度平均点よりも1.3点ほど上回ったので、四捨五入して前年度の合格基準点である43点に1点加えた44点を合格基準点としました。

択一式の合格基準点が補正された年度および科目

まずは下の表をご覧ください(クリックすると拡大します)。表をご覧頂きますと、現行の試験制度となった平成12年(2000年)以降、択一式試験で科目別合格基準点の補正がおこなれたのは、平成13年~同18年(2001年〜2006年)の間では4回、平成26年~同29年(2014年〜2017年)の間では3回であることがわかります。

平成19年~同25年(2007年〜2013年)の間では、一度も科目別合格基準点の補正はありませんでしたが、平成26年からは再び、補正がおこなわれるようになったのです。

平成13年~同18年の間の補正が多かった理由

平成13年~同18年の間で科目別の合格基準点の補正が多かった理由ですが、「社労士試験科目得点状況表(択一式)」が公表されていないため、詳しい理由は分かりません。

ただし、平成18年試験での択一式平均点は分かりますので、それを基に補正が多かった理由を考察します。

平成18年試験で補正がおこなわれたのは、労働基準法と一般常識の2科目であり、平均点は次のようになっています。

  • 労基・安衛(3.1点)
  • 一般常識(3.6点)

また上記2科目を補正した理由として「4点以上正解している者の割合が5割に満たないため」との記載が「第39回(平成19年度)社会保険労務士試験の合格基準について」にあります。

補正された上記の2科目以外で、平均点が4点未満の科目は健保(3.9点)と厚年(3.6点)の2科目もあり、平均点から考察すると、平成18年試験は、択一式の難易度が高かったことが分かります。

出典:① 社労士試験合格基準 開示データ (平成19年~令和〇年) と情報公開審査会答申

なお、平成18年試験を受験した方は

労働一般は白書や調査関係からの問題がかなり難しく、受験学校がおこなっている白書対策でも対処できないレベルであった。社会一般は法律関係からの出題であったが、ここを得点できないと合格基準点には満たないだろう。

と一般常識についての感想を述べています。

一般常識以外でも、補正がおこなわれている労基・安衛、平均点が3.6点の厚年は、当時の問題を見ると、初学者や学習経験の浅い受験生が、答えることに難渋する論点からの出題もあったので、そのことも平均点が下った要因と考えられます。

【平成18年試験の問題は下のリンクよりご覧になれます】
平成18年度社労士試験択一式「労基・安衛」リンク先⇒社労士過去問ランド(平成18年 労働基準法/安衛法)
平成18年度社労士試験択一式「厚年」リンク先⇒社労士過去問ランド(平成18年 厚生年金保険法)

平成26年~同29年の間の補正が多かった理由

平成26年~同29年の間で補正が多かった理由については、「個数問題」が出題されたことが挙げられます。

個数問題とは、通常の出題形式とは異なり「正しいものor誤っているものはいくつあるか」と問われるものです。

個数問題は、平成26年試験で初めて出題され、その後、数問程度が出題されています。

ちなみに、個数問題の出題数は年度別に次のようになっています。

  • 平成26年度 4問
  • 平成27年度 3問
  • 平成28年度 7問
  • 平成29年度 3問
  • 平成30年度 7問
  • 令和元年度 3問
  • 令和2年度 4問
  • 令和3年度 3問
  • 令和4年度 3問

正しいまたは誤っている肢を数える個数問題は、通常の択一式問題よりも解答に時間を要します。

なぜならば、自分が導き出した答えが、問題中の5肢になかった場合、再度問題を読み返す必要があるからです。

また、すべての肢の正誤を導き出せる受験生は数少ないですから、難易度の高い個数問題が多く出題されると、必然的に平均点が下がることになります。

個数問題が7問も出題された平成28年試験は、平均点が前年度の31.3点から28.8点と大きく下がったのです。

しかも平成28年試験の択一式では、3科目も合格基準点が補正されており、多くの受験者が個数問題に手を焼いたことが分かります。

ただし、平成30年試験では、平成28年試験と同じく個数問題が7問出題されていますが、出題内容が比較的平易であったので、平成28年試験の個数問題よりも正答率が高くなりました。

また平成30年試験では、科目別合格基準点の補正はありませんでした。

基礎力を付ければ合格基準点を超えることが可能な択一式試験

平成26年から同29年にかけての択一式試験では、3度も科目別合格基準点の補正がおこなわれ、特に平成28年試験(合格率4.4%)では3科目の合格基準点が補正されました。

おそらくは、平成28年から択一式試験の試験水準が引き上げ(難易度の引き上げ)られたのでしょう。

しかし、平成29年試験の合格率は6.8%と前年よりも2.4%も上昇し、択一式試験の科目別合格基準点の補正は1科目のみでした。

ちなみに、平成29年以降の択一式試験は、総得点合格基準点が43点~45点の間で推移していますが、今後、多くの受験生が苦手とする個数問題の出題数が増え、さらに平成28年試験のような出題内容が難問化をする可能性はなきにしもあらずです。

ただし、試験水準が引き上げられたとはいえ、基礎力を付けて、平易な問題の取りこぼしさえしなければ、総得点でも科目別でも、合格基準点を超えることは十分に可能でしょう。

平成29年以降、総得点合格基準点が大きく上下しないことが、それを証明しているのです。

余談ですが、択一式試験は肢別の過去問題集や一問一答をやり込むことで、合格基準点に到達することができます。

テキスト→肢別過去問題集→テキスト(通信講座を利用されている方は動画講義)→肢別過去問題集と繰り返すことで、択一式試験で求められる知識は十分に定着するでしょう。

今後の社労士試験について

現在の社労士試験制度を変更する場合、社労士法を改正しなければなりません。

平成5年試験まで出題されていた「労働に関する一般常識」科目の論述式試験は、同年6月14日に公布された改正社労士法により、翌年から科目名称を「労務管理その他労働に関する一般常識」と変更し、出題方式も記述式(穴埋め形式)に変更されました。

また、平成26年にも社労士法(第8次)が改正されましたが、その際は補佐人制度が創設されたものの、試験制度の変更はされませんでした。

しかし法改正に伴う附帯決議では、厚生労働委員会が次のような要請をしています。

附帯決議(一部抜粋)
訴訟代理人の補佐人制度の創設については、個別労働関係紛争に関する知見の有無にかかわらず全ての社会保険労務士を対象としていることから、その職務を充実したものとするため、社会保険労務士試験の内容の見直しや対審構造での紛争解決を前提とした研修などのほか、利益相反の観点から信頼性の高い能力を担保するための措置を検討すること。

附帯決議で要請されている試験内容の見直しをおこなうには、あらためて社労士法を改正しなければなりません。

社労士法は過去に8回改正がおこなわれており、前回の改正がおこなわれた平成26年からは、令和4年の時点で8年が経過しています。

そのため全国社労士会政治連盟は令和3年に第9次社労士法改正に関する要望事項を取りまとめており、社労士法改正に向けて動き出しています。

今後、社労士法改正に伴って試験制度が変更された場合は、かなりの確率で現在の試験制度よりも難しくなるでしょう。

また試験内容の見直しにより、択一式試験がなくなるのか否か、または難問化するのか否かの動向が注目されます。

今後、試験制度がどのように見直されるのかは、合格を目指す受験生にとっては気になるところでしょうが、まずは現状の試験制度での合格を目指しつつ、合格後に社労士として活躍する姿をイメージして、社労士試験という難関を乗り越えてください。

社労士試験対策講座(通信講座限定)については、下にリンクした記事にまとめています。ぜひご覧ください。

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